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T. A. Z. The Temporary Autonomous Zone(一時的自律ゾーン), Ontological Anarchy(存在論的アナーキー), Poetic Terrorism(詩的テロリズム) Hakim Bey(ハキム・ベイ) 箕輪 裕 訳<span class="deco" style="font-size:medium;">

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狂気の愛 Amour Fou

 「狂気の愛」は、「社会民主主義」でもなければ、「2人の議会」でもない。諸々の意味を取り扱うその秘密会の議事録は、散文で著すにはあまりに膨大で、あまりに厳密すぎる。これでもなく、あれでもない──「狂気の愛」の「寓意辞典」が、あなたの手の中でわななくのである。
 もちろん、「狂気の愛」は教師と警察を欺くものであるが、同様に解放運動家やイデオローグたちをも嘲笑する──それは、いわゆる清潔で明るく照らされた空間なんかではないのだ。位相幾何学的(トポロジカル)な山師が、その回廊と放棄された公園を、輝く黒色と薄く透き通った狂気の赤で彩られた待ち伏せ装置をレイアウトしたのだから。
 我々のそれぞれは、その地図の半分しか持ち合わせてはいない──ルネサンス期の2人の権力者のように、我々は新しい文化というものを、我々の呪われた身体の混合、呪われた液体が溶け合ったものと定義する──我々の「都市国家」の「仮想の」境界線は、我々の汗で滲むのである。
 存在論的アナーキズムは、その最後の釣行から決して帰還することがなかった。誰かがFBIに密告しないあいだは、カオスは文明の未来について思い悩んだりはしない。「狂気の愛」は偶然にしか生じない──その最初の目標は、「銀河」を内部に取り込むことにある。突然変異の陰謀なのだ。
 「家族」に向けられたその唯一の関心は、近親相姦の可能性にある(「あなた自身を増やせ!」「すべての人類をファラオに!」)──おお、もっとも誠実な読者よ、我が同胞、我が兄弟/姉妹よ! ──そして子どもの自慰行為の中に、それは(日本製の女性用薄片避妊薬のように)隠されている「国家」が砕け散るイメージを見ているのである。
 言葉がそれを用いる者のものであるのは、誰か他の者がそれを盗み返すまでのあいだのことにすぎない。シュールレアリストたちは、「狂気の愛」を「抽象主義」という幻の仕組みに売り渡すことによって自身の名を汚した──彼らは、無意識の内に他者を凌ぐ力だけを求めていたのであり、ここにおいて(成人した白人男性だけのために、婦女子を骨抜きにする「自由」を要求した)サド侯爵の後を襲うこととなったのである。
 「狂気の愛」とは、それ自身の美学で飽和したもの、自身の身振りの軌跡で溢れかえったもの、天使の時計に心を奪われているもの、人民委員や商店主にとってのお誂えの運命ではないものである。その自我(エゴ)は欲望という可変性の中に消散し、そのコミューン的精神は強迫観念という自愛のなかで萎びるのである。
 「狂気の愛」が通常ではないセクシュアリティを巻き込む方法は、魔術が通常ではない意識を要求するに際してのそれである。アングロ=サクソンのポスト「プロテスタント」的世界は、そのすべての抑圧された官能を広告へとそそぎ込み、それ自身を引き裂いてぶつかり合う暴徒としたのだが、それがすなわち、ヒステリックな似非淑女たち vs 乱交を好むクローン族[マッチョタイプの服装を好む男性同性愛者]と以前の=元=独身者たちである。「狂気の愛」は誰かの軍隊に加わることを望まず、「ジェンダー・ウォーズ」には参加しておらず、雇用機会均等にはうんざりしており(事実、「狂気の愛」は生活のために働くことを拒絶する)、不平は言わず、弁解もせず、決して投票もしないが、しかし絶対に税金を払わない。
 「狂気の愛」は、すべての父無し子(「私生児」)が出産予定日を迎え、生まれ出るのを楽しむであろう──「狂気の愛」は反エントロピー的趣向の上で栄えるのである──「狂気の愛」は子どもたちに悪戯されることを好む──「狂気の愛」はお祈りよりはましだし、シンセミアよりも好ましい──「狂気の愛」は、どこに行っても自分専用の椰子の木と月とを備えている。それは熱帯信仰を、サボタージュを、ブレイクダンスを、『愛しのレイラ』を、そして火薬と精液の臭いとを崇拝するのだ。

 「狂気の愛」は、それが偽装しているのが結婚か、ボーイスカウトの一隊であるかを問わず、通常は違法である──自身の分泌液を醸したワインによってであるか、あるいは自身のポリモーファスな美徳の煙によってであるかを問わず、常に酩酊している。それは感覚の錯乱ではなく、むしろそれらの神格化なのである──自由の結果ではなく、その前提条件なのだ。それが、〈光明と快楽〉 ( lux et voluptas )なのである。